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前橋地方裁判所 昭和30年(ワ)165号 判決 1958年2月11日

原告 群馬県多野郡新町

原告側補助参加人 国

訴訟代理人 越智伝 外三名

被告 株式会社青柳製作所 外一名

主文

被告青柳今朝雄は原告に対し別紙第一目録記載の物件につき前橋地方法務局藤岡出張所昭和弐拾九年壱月弐拾五日受附第九号をもつてなした同年同月弐拾日付売買に因る所有権取得登記の抹消登記申請手続をなせ。

被告株式会社青柳製作所は原告に対し別紙第一目録記載の物件につき昭和弐拾六年参月四日売買に因る所有権移転登記申請手続をなせ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人及び原告補助参加人指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「一、別紙第一目録記載の土地三七筆(以下単に「本件三七筆」という。)は、別紙第二目録記載の土地八一筆(以下単に「八一筆」という。)、別紙第三目録記載の土地七筆(以下単に「本件七筆」という。)及び別紙第四目録記載の土地七筆(通称金沢住宅地と呼ばれる土地で、以下単に「金沢住宅地」という。)とともに、いずれも、もと被告会社新町工場の敷地に属し、これらの各土地並びにその地上の工場その他の建物は、すべて被告会社の所有であつた。

二、ところが、昭和二〇年七月一四日国(旧海軍省)は、軍需工場設立のため、被告会社から右土地建物一切を代金五百万円で買収してその所有権を取得し、昭和二一年八月二二日これが移転登記嘱託の手続をなし、当時国のためその所有権取得登記がなされた。(もつとも、本件七筆については、当時書類の不備のため登記されなかつた)

三、しかし、その後、昭和二一年一〇月三〇日戦時補償特別措置法が施行されるに及んで、被告会社は、同法第六〇条に基き国に対し右売渡物件全部の譲渡を申請し、昭和二三年九月三日国(東京財務局長)との間にこれが譲渡契約を締結した結果、本件三七筆の土地を含む右各不動産の所有権は、再び被告会社に帰属するに至つた。

そして、これが所有権移転につき、被告会社は、国に対しその移転登記嘱託の請求をなし、本件三七筆及び本件七筆を除く前記土地建物については、同年一二月二四日被告会社のためその所有権取得の登記がなされたが、本件三七筆については、被告会社が右登記嘱託の請求をなすに当つて、不注意にもその目録中にこれが記載を遺脱した関係で、被告会社への移転登記がなされず、且つ、その登記もれの事実は、昭和二八年二月までは、国はもとより被告会社その他何人にも気付かれずに経過した。

四、ところで、原告は、昭和二六年一月自町の発展のため警察予備隊の誘致を企て、当時再び被告会社の所有となつていた同会社新町工場の土地建物全部を買い受けてこれを右警察予備隊営舎用に提供すべく、警察予備隊誘致運動と併行して、同月二二日から、被告会社代表者青柳高一に対し、これが買受の交渉を始めたところ同人も当初から乗気であつて、爾来折衝を重ねるうち、同年二月末には、警察予備隊の新町設置も内定したので、同年三月四日原告町長茂木伝八と被告会社代表者青柳高一との間に最終的交渉を行つた結果、同日原告と被告会社との間に、同会社新町工場の土地建物一切(但し、被告会社側の希望により、建物のうち製材所だけは、これを除外した。)を、代金は千六百万円、その支払方法は内金一千万円は、被告会社が当時本件八一筆、金沢住宅地並びにその各地上の建物を抵当として埼玉銀行に対し負担していた金一千万円の債務を原告が引き受けて弁済し、残額金六百万円は、現金をもつて支払うこととする定で、原告が買い受ける契約が成立し、ここに原告は、本件三七筆を含む被告会社新町工場の敷地及びその地上の建物一切(但し、前記製材所を除く。)の所有権を取得するに至つた。(この契約締結の際作成された契約書「甲第一号証」には、買受土地の表示として、単に、「新町工場敷地参万八千七百八拾八坪」と記載してあるが、これは、当事者の間では、既にこれまでの交渉で、売買の対象たる土地は、新町工場の敷地全部とするということが余りにも明瞭となつていて、契約締結の際も個々の土地をとりあげて話題にしたことがなく、そして、原告側は、かねて被告会社側から、右工場敷地の総坪数を三八、七四四坪と聞いていたので、敷地全部ということを表わす趣旨のもとに、その総坪数を記載しようとして、誤つてこの数字と異なる前記のような記載をしたのであつて、原告は、それまでに、右敷地の測量は勿論、その登記簿も検討したことがなかつたため、このような根拠のない数字が記載されるに至つたのである。しかし、当時においては、青柳高一すら、右工場敷地の総筆数、総坪数を知らなかつたような次第で「新町工場敷地参万八千七百八拾八坪」なる右の記載は、よし坪数に誤りがあつたとしても、契約締結の際居合せたすべての者に被告会社新町工場の敷地の総坪数と理解され何の疑問ももたれなかつたのである。なお原告が右代金六百万円の支払を完了した後、同年六月本件三七筆以外の物件につき、原告のため所有権取得の登記がなされているのに、本件三七筆についてその登記のなされていないのは、前記のとおり、本件三七筆につき国から被告会社への所有権移転登記がもれたまゝとなつており、それに原告と被告との間の右売買契約の際、本件三七筆を特に問題としなかつたことからである。)

五、そこで、原告は、同年三月二八日右買受物件のうち、金沢住宅地及びその地上の建物を除くその他の土地建物全部(従つて本件三七筆を含む)を群馬県に寄付し(当時被告会社から原告への所有権移転の登記は、本件三七筆以外のものについてもまだされていなかつた。その登記が同年六月にされたことは既に述べた。同年八月二〇日から、これを国(警察予備隊)に無償で使用させるに至つた。そして、その後昭和二八年二月一七日右寄付物件中本件三七筆を除くその余の物件につき原告から群馬県への所有権移転登記がなされた。

ところが、同月下旬になつて、国は、右のように無償使用中の土地は、将来すべて買収するとの方針を明らかにしたので、群馬県は、原告から寄付を受けた物件のうち、土地は、原告に返還し改めて国に原告から買収して貰うとの方針を定め、同年七月二三日本件三七筆を含む前記の土地全部を原告に返還した。よつて、原告は、再びその所有権を取得し、且つ同年八月一日これら土地のうち、本件三七筆を除くその他の土地につき原告のためその所有権取得登記がなされた。そして、同年一一月二〇日国は、右土地のうち、本件三七筆を除いたすべての土地、すなわち本件八一筆及び本件七筆の土地を、改めて原告より買収し翌二一日国のためその所有権取得登記がなされたが、本件三七筆は、これより先、同年二月下旬国において調査の結果、前記登記もれの事実が初めて判明し、右一一月二〇日の買収当時は、登記簿上なお国(大蔵省)の所有名義となつていたので、買収から除外された。従つて、本件三七筆の土地は、現に原告の所有である。

六、しかるに、被告会社代表者青柳高一は、同年八月に至つて、本件三七筆につき、前記登記がすんでいないことに初めて気付き、同年一一月五日国(関東財務局長)に対し、本件三七筆につき、右昭和二三年九月三日の譲渡に因る所有権移転の登記もれがあるとして、その登記嘱託の請求をなし、国(同局長)は、右請求に基き、これが登記嘱託をなした結果、同年一二月二八日被告会社のため、その所有権取得登記がなされた。

七、そしてその後、昭和二九年一月二五日には、本件三七筆につき、被告会社が同年同月二〇日これを被告青柳今朝雄に対し売買に因り譲渡したものとして、前橋地方法務局藤岡出張所受付第九参号をもつて同被告のため売買に因る所有権取得登記がなされた。

八、しかし、前記七記載の被告青柳今朝雄のためなされた所有権取得登記は、次の理由により抹消せらるべきものである。

すなわち、

(一) 右登記は、被告会社代表者青柳高一が、原告の被告会社に対する前記四記載の売買に因る本件三七筆の所有権移転登記請求権の行使を妨害するため、両被告間に何等売買の事実がなく、実体上の権利関係に変動がないのに拘らず、被告青柳今朝雄の名義を借用してなした仮装の登記である。

(二) 仮りに、両被告間に本件三七筆の譲渡行為が、形式上存するとしても、それは、本件三七筆を真実被告青柳今朝雄に移転する意思がなく、右(一)記載の目的と同一の目的のためになした通謀虚偽の意思表示によるものであるから、無効である。

(三) 仮りに、両被告間の譲渡行為が、真実所有権を移転する意思があつてなされたものであるとしても、その行為は、被告等共謀のうえ、既に原告と被告会社との間の前記昭和二六年三月四日の売買で代金の支払のあつた本件三七筆につき、更に原告にその買取方を迫り、故意に二重の代金の支払を求めようとしてなしたものであつて、不法を目的とする行為であるから、民法第九〇条により無効である。

九、よつて、原告は、本件三七筆につき、まず、所有権に基いて、被告青柳今朝雄に対し、前記七、記載の所有権取得登記の抹消登記申請手続を求め、また、被告会社に対し、前記四記載の昭和二六年三月四日の売買に因る所有権移転登記申請手続を求める。」

と陳述し、被告等の主張事実を否認し、

「被告会社新町工場の土地建物の価格は、右売買当時において、全部で僅々一千万円を出るものではなかつたが、原告は警察予備隊誘致の必要に迫られていたので、青柳高一の要求を容れて千六百万円の代金額を認めるに至つたのである。それ故、その上に被告等主張の如き契約を締結しなければならない実質的事情はすこしも存在しなかつた。もつとも、本件売買契約後、青柳高一から原告に対して、当時、富士産業株式会社及び東鉄工業株式会社の各所有であつた被告等主張の土地建物について、売買のあつ旋をして欲しいという希望が表明され、原告がそのあつ旋に乗り出したことはあるが、それは単なるあつ旋にしか過ぎないものであり、まして本件売買契約とは何等関係のないものであつた。」

と述べ、<立証 省略>

被告等訴訟代理人は「原告の被告等に対する請求は、いずれも、これを棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、

請求原因一及び二記載の事実は、認める。

同三記載の事実は、そのうち、登記もれの事実が昭和二八年二月までは、国はもとより、被告会社その他何人にも気付かれずに経過したとの点を争うほか、全部認める。

同四記載の事実中、原告が昭和二六年一月二二日から被告会社代表者青柳高一に対し、被告会社新町工場の土地建物の買受交渉を始め、青柳も当初からその譲渡に乗気であつたこと、同年二月末に警察予備隊の新町設置が内定し、且つ、同年三月四日原告町長茂木伝八と被告会社代表者青柳高一との間に右譲渡の最終的交渉が行われた結果、同日原告と被告会社との間に、右新町工場の土地建物譲渡の契約が成立したこと(但し、その譲渡の対象となつた物件の範囲及び対価等については争う。)当時被告会社が本件八一筆及び金沢住宅地並びにその各地上の建物を抵当として埼玉銀行に対し、千数百万円の貸金債務を負担していたこと、同年六月頃原告のためその主張の所有権取得登記がなされたこと、本件三七筆につき原告のため所有権取得登記がなされなかつたこと及び被告会社が原告から合計金六百万円の支払を受けたことは、いずれもこれを認めるが、原告が警察予備隊誘致の運動をしたことは知らない。

被告会社は、原告から新町発展のため被告会社新町工場の土地建物を包銭で譲渡してほしいとの懇請があつたので、原告と協議の末、土地は原告が必要とするものだけを譲渡することとしたところ、原告は、土地の目録を持参し、これだけが警察予備隊の敷地として入用であるとして、本件八一筆及び本件七筆の譲渡を求めたので、目録に記載してあつた右土地のみを譲渡したのであつて(なお、建物としては、これらの土地の上にある堅固な木造建物約五千坪が譲渡の対象となつた)本件三七筆を原告に譲渡したことはない。(従つて、本件三七筆につき原告のため所有権取得登記のなされなかつたのは当然である。)また、被告会社の右土地建物の当時における価格は、一億三千万円以上であつたのであるから、被告会社がこれを原告主張の如き代金で売り渡す訳がなく、被告会社は、原告と協議の結果、右土地建物譲渡の代償として、

(一) 原告は、被告会社に対し、右土地建物内にある諸機械器具等の移転費として金六百万円を支払う。

(二) 原告は、被告会社に対し、包銭として金一千万円を支払う。

(三) 原告は、富士産業株式会社(もと中島飛行機株式会社)新町分工場跡地一万二千坪及び同地上の建物千五百坪のうち、高橋長太郎または高橋土木建築株式会社に払い下げる土地二千坪及び建物二棟を除いた他の土地及び建物(別紙第五目録記載の物件)(その評価額合計金四千五百万円相当のもの)を原告が取得した上、これを被告会社に金五百八十万円で払い下げるか、または、原告が斡せんしてその所有者から被告会社に同価格でこれが所有権を取得させる。

(四) 更にまた原告は、当時東鉄工業株式会社が使用していた砂利置場約二千坪(別紙第六目録記載の物件)及びこれに隣接する約五反歩の土地(別紙第七目録記載の物件)(以上の評価額合計金九百万円相当のもの)を、前同様原告が取得した上、これを被告会社に金百万円以内で払い下げるか、または、原告が斡せんして所有者から被告会社にその所有権を取得させる。

との約定が成立し、右(三)(四)記載の土地建物を被告会社が取得し得ることとなつたので、原告に右土地建物を譲渡することを約したのであつて、被告会社の右土地建物の譲渡と、原告の右(三)及び(四)に記載する条項の履行とは、相互に対価として不可分且つ同時履行の関係にあつたのである。

なお、被告会社が原告から支払を受けた金六百万円は、右(一)記載の移転費として支払を受けたものであつて、代金として支払を受けたものではない。

請求原因五記載の事実中、本件三七筆が原告の所有であるとの原告主張事実は、否認する。その余の事実は、知らない。

同六記載の事実は、被告会社代表者青柳高一が原告主張の日時に、国(東京財務局長)に対し、その主張の登記嘱託の請求をなし、これに基き登記嘱託がなされた結果、その主張の登記がなされたことは、これを認めるが、その余の事実は、否認する。

同七記載の事実は、認める。

同八記載の事実は、否認する。本件三七筆の土地につき昭和二九年一月二五日被告青柳今朝雄のためなされた所有権取得登記は、被告会社が同年同月二〇日被告青柳今朝雄に対し、右土地を代金五十五万円で売り渡した結果、その履行としてなされた登記であつて、もとより有効な登記である。

以上答弁のとおりであるから、原告の被告等に対する本訴請求は、いずれも理由がない。

と陳述し、

なお、被告会社の抗弁として、

仮りに、原告主張の如く、被告会社が本件三七筆をも原告に譲渡し、且つ、被告会社と被告青柳今朝雄との間の本件三七筆の売買が無効であるとしても、請求原因四記載の事実に対する被告等の答弁中に記載したとおり、原告と被告会社との間には、被告会社の新町工場の土地建物譲渡に関連して、前記(一)乃至(四)の如き条項の約定が成立したのであつて、被告会社の新町工場の土地建物を原告に譲渡する義務と、原告の右(一)乃至(四)の条項を履行する義務とは、相互に対価として不可分且つ同時履行の関係にあつたところ、被告会社は、昭和二六年三月四日の契約直後に、約旨のとおり、その所有の新町工場の土地建物を原告に引き渡し、同年六月本件三七筆以外の土地建物につき所有権移転登記を完了しているのに、原告は、右(一)及(二)の条項を履行しただけで、(三)及び(四)の条項は、未だ履行していない。よつて、被告会社は、同時履行の抗弁権を主張し、原告が被告会社に対し、右(三)及び(四)の条項の履行として別紙第五乃至第七目録記載の不動産を代金六百八十万円で払い下げて引渡し(または、原告が斡せんして被告会社にその所有権を取得させて)各所有権移転登記手続をするときまで、被告会社の原告に対する本件三七筆の所有権移転登記申請手続をなす義務の履行を拒絶する。

また、原告は、右物件のうち、別紙第五目録記載の不動産については、これを被告会社の了解を得ることなく、同目録下段記載の第三者に分譲したので、もし、右分譲により、原告の被告会社に対する同目録記載の不動産の払下(または、原告が斡せんして被告会社にその所有権を取得させること)引渡、所有権移転登記の履行が不能であるならば、原告は、被告会社に対し、被告会社が右不動産を所有し得べくして得なかつたことによつて被むつた損害を賠償すべき義務があり、その損害の額は、右不動産の履行不能時における価格の総額金四千五百万円から、被告会社が右不動産の取得のため支払うべかりし代金五百八十万円を差引いた金三千九百二十万円がこれに当るものというべきであるから、被告会社は、原告が被告会社に対し、右金三千五百二十万円を支払い、且つ、別紙第六及び第七目録記載の不動産を代金百万円で被告会社に払い下げて引き渡し(または、原告の斡せんによつて、被告会社にその所有権を取得させて)その所有権移転登記をするときまで、原告に対する本件三七筆の所有権移転登記申請手続をなす義務の履行を拒絶する。

と述べた。

立証<省略>

理由

本件三七筆の土地が本件八一筆、本件七筆及び金沢住宅地の各土地とともに、もと被告会社新町工場の敷地に属し、これら各土地並びにその地上の工場その他の建物が全部被告会社の所有であつたこと、昭和二〇年七月一四日国(旧海軍省)が軍需工場設立のため、右土地建物の一切を同会社から買収してその所有権を取得し、昭和二一年八月二二日これが所有権移転登記嘱託の手続をなし、その頃国のためその所有権取得登記がなされたこと、ところが、その後同年一〇月三〇日戦時補償特別措置法が施行されるに及んで、被告会社が同法第六〇条に基き、国に対し右売渡物件全部の譲渡を申請し、昭和二三年九月三日国(東京財務局長)と被告会社との間に、これが譲渡契約を締結した結果、本件三七筆を含む右土地建物全部の所有権が再び被告会社に移転したこと、及び、その所有権移転につき、本件三七筆及び本件七筆を除くその他の土地並びに建物については、同年一二月二四日被告会社のためその所有権取得登記がなされたが、本件三七筆については、当時原告主張の如き事情で、被告会社への移転登記がなされず、昭和二八年一二月二八日になつてその登記がなされたことは、すべて本件各当事者間に争がない。

そして、証人三木武雄の証言により真正に成立したと認められる甲第一三号証、同証人及び証人茂木伝八の各証言によると、原告は昭和二六年一月自町の発展をはかるため、さきに国が被告会社に返還し当時再び被告会社の所有に帰しその新町工場の用地となつていた右土地及びその地上の建物を買い受けて警察予備隊に提供する意図のもとに、警察予備隊誘致の運動を始めたことが認められ、また、原告が同月二二日から被告会社代表者青柳高一に対し、右新町工場の土地建物の買受交渉を始めたところ、同人もその譲渡については当初から乗気であつたことは、被告等の認めるところであつて、更に、成立に争のない甲第一号証、証人茂木伝八の証言により真正に成立したと認められる甲第三号証、前掲甲第一三号証、証人三木武雄、同茂木伝八、同福田光治、同松浦英の各証言及び被告会社代表者青柳高一の尋問の結果(但し後記措信しない部分を除く)を綜合すると、原告の被告会社に対する右新町工場の土地建物の買受交渉は、原告町長茂木伝八、元町長笛木玄次郎、町議会議員福田光治、同松浦英等と被告会社代表者青柳高一との間になされたのであるが、原告側は、当初からその買受の対象を一々個別的に指定することなく、単に被告会社新町工場の土地建物一切ということで買受の申入をなし、右青柳においても、同工場建物のうち、製材工場の建物は被告会社本庄工場へ移転したい希望があつて譲渡から除外すべきことを明らかにしたが、他は原告申入のとおり、工場敷地並びに建物の一切という申入に応じて話を進め、当時本件八一筆及び本件金沢住宅地並びにその各地上の建物について、被告会社の埼玉銀行に対する債務担保のため抵当権が設定してあつたこと(同銀行に対する債務担保のため、この抵当権の設定してあつたことは、当事者間に争がない。)などから、代金の額並びにその支払方法については折衝を要する多くの問題があつたけれども、売買の対象範囲については、前記製材工場を除くこととしたほかは別段問題がなく、交渉の主眼は代金に集中し、その最後的交渉が同年三月四日被告会社代表者青柳高一方で、同人と原告町長茂木伝八との間でなされたが、その際も専ら代金問題が議せられ、売買物件そのものについては、既にそれまでの交渉過程において、前記製材工場を除いた被告会社新町工場の不動産一切ということが極めて明瞭となつていたので、代金の協議が成ると同時に、同日被告会社新町工場敷地並びにその敷地内の製材工場を除く一切の建物を、原告主張の如き代金額及び支払方法の定めで原告に譲渡する旨の契約が締結され、且つ、その席上原告町の振興課長三木武雄の起案になる契約書(甲第一号証)に双方の調印を経たこと、しかるに、右契約書には、右工場敷地の坪数が三万八千七百八十八坪と表示されてあつて、この坪数は、被告会社新町工場の敷地である本件三七筆、本件八一筆、本件七筆及び金沢住宅地の総坪数と相違しているけれども、これは、右三木が以前同会社の庶務課長であつた福田光治から、右工場の敷地は八八筆でその総坪数は三八七四四坪と聞いていたところから、敷地全部ということを表わすつもりで、右総坪数を記載するに当つて、坪数の末尾四四と筆数八八筆の八八とを混線させたため、前記のとおり三万八千七百八十八坪と誤り記載するにいたつたものであつて、従つて、右の記載は、新町工場敷地の総坪数を表わすものとしては、二重の誤をしているものではあるが、当時は青柳高一すらも新町工場敷地の筆数、坪数を正確に知らず、また右坪数の記載に何等異議を述べなかつたような訳で、右三万八千七百八十八坪なる記載は、右契約書作成の当時にあつては、当事者双方に被告会社新町工場の敷地全部を表示するものと理解されていたことを認めることができ、以上認定の事実に、当事者間に争のない本件三七筆が当時被告会社新町工場の敷地の一部で、同会社の所有であつたこと、検証の結果により明らかな本件三七筆がいずれも細長い線状の土地であつて、その現状は隣接の土地と切り離しては利用の価値がなく独立して取引の対象となるような土地でないことを併せ考えると、原告は、右売買契約によつて被告会社から本件三七筆の土地をも譲り受け、その所有権を取得したことを認めるに十分である。以上の認定に反する被告会社代表者青柳高一尋問の結果は、当裁判所の措信しないところであり、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

ところで、原告が昭和二六年六月本件三七筆を除いた被告会社新町工場の敷地及びその敷地内の製材工場を除いた建物につき、被告会社から所有権取得の登記を受けたことは、当事者間に争がなく、成立に争のない甲第五、六号証の各一、二、証人三木武雄、同茂木伝八の各証言に、既に認定した本件三七筆につき国から被告会社への所有権移転登記が原告主張の事情で未了となつていたこと、及び被告会社と原告との間の前記売買契約締結の際その売買物件を単に新町工場敷地並びにその敷地内製材工場を除く一切の建物というふうに包括的に定めて、あえて個別的に指定しなかつたことをも併せ考えると、原告の本件三七筆の所有権取得についての登記は、被告会社への前記所有権移転登記が未済であつたこと及び原告と被告会社との右売買契約において特に本件三七筆がとり挙げて話題とならなかつたことに原因して当時なされずにおわり、登記もれのまま看過されて来たが、原告は、昭和二六年三月二八日右買受物件のうち、本件金沢住宅地及びその地上の建物を除いて、本件三七筆を含むその余の土地全部並びにその地上の建物を、群馬県に寄付し、県が国(警察予備隊)にこれを無償で使用させるにいたつたこと、しかし、その後、原告主張の事情で、右寄付物件中土地は、昭和二八年七月二三日全部原告に返還されたことを認めることができる。もつとも、前掲甲第六号証の一(群馬県指令財第八八号)に記載の譲渡物件の表示には、本件八一筆及び本件七筆を表示し、本件三七筆にあたる土地の表示を欠いているけれども、前掲甲第五号証の一、二、証人三木武雄、同茂木伝八の各証言に、本件弁論の全趣旨を参酌して考えると、原告が県に対し新町工場の土地建物を寄付した当時は、同工場は、まだ賠償指定工場に指定されたまま、その、解除がなされておらず、原告は、その土地建物に対する権利証も未送付のままで寄付の採納をえたような状況であつて、右寄付物件中に本件三七筆が含まれていることが、書面上必ずしも明瞭でなかつたところ、県が原告に対し各寄付物件中の土地全部を返還することとなつた昭和二八年七月二三日当時においては、既に、これより先き、同年二月頃国(防衛庁)の調査の結果、本件三七筆につき国から被告会社への所有権移転登記が未済のままとなつていて、本件三七筆の土地は登記簿上国の所有名義となつていることが判明したことから、自然県としてもこのことを知つていて、従つて、登記簿上現に国の名義であるものを右指令書に返還物件として記載することはできないとの事務処理上の考慮から、右指令書には本件三七筆の表示がなされなかつたものと推認することができるので、右甲第六号証の一に本件三七筆の記載がないからといつて、このことから直ちに本件三七筆が右返還から除外されたとか、あるいは、更にさかのぼつて、前記寄付物件に含まれていなかつたと推測することはできない。してみると、本件三七筆は、また県から原告に返還され、原告は再びその所有権を取得したものといわねばならない。

ところで、昭和二八年一二月二八日になつて、本件三七筆につき、被告会社のため、昭和二三年九月三日付譲渡に因る所有権取得登記がなされ、次いで、同会社が昭和二九年一月二〇日被告青柳今朝雄に対し、本件三七筆を売買に因り譲渡したとして、同年同月二五日同被告のため売買に因る所有権取得登記がなされたことは、いずれも本件各当事者間に争がない。

原告は、被告青柳今朝雄のためになされた右所有権取得の登記は、両被告間に売買の事実がなく、被告会社代表者青柳高一が被告青柳今朝雄の名義を借用してなした仮装の登記であると主張するけれども、この主張事実を認めるに足りる証拠はない。しかしながら、証人三木武雄の証言によると、青柳高一が本件三七筆についての前記登記もれの事実を初めて知つたのは、昭和二八年八月頃であつたことが認められ、また、被告会社代表者青柳高一が、前記のとおり、本件三七筆につき同年一二月二八日国から被告会社への所有権取得登記のなされて間もない昭和二九年一月二五日に、被告青柳今朝雄にその所有権移転登記をしていること、成立に争のない甲第七号証、証人三木武雄、同設楽明稔、同野口一郎の各証言、被告会社代表青柳高一、被告青柳今朝雄各尋問の結果(後記措信しない部分を除く)によつて認められるところの、青柳高一は、右昭和二八年八月頃に本件三七筆の登記もれを知つて以来、自身で原告あるいは警察予備隊の後身である陸上自衛隊新町駐屯部隊に対し、本件三七筆を相当高額の代金で買い取るよう執ように要求しており、しかも、このことは、本件三七筆が登記簿上被告青柳今朝雄の所有名義となつた後である昭和三〇年九月頃までも継続してなされているのに、他方、被告青柳今朝雄は、全くそのような要求をしておらず、同人は本件三七筆の所在場所すらも確認していないこと、それに、被告青柳今朝雄は、青柳高一の実弟であつて、本件三七筆につき今朝雄のため右所有権移転登記のなされた前記日時の頃は、高一方に同居し、生活も兄高一に依存していたこと、右移転登記は売買を原因としているのに、代金授受の事実のないこと、右移転登記のなされた後である昭和二九年二月一日に、本件三七筆につき青柳高一を債務者として根抵当権設定登記がなされていることの諸事実を綜合し、なお、被告会社代表者青柳高一の本人尋問の際における、本件三七筆についての両被告間の所有権譲渡の経緯についての原告側の質問に対する応答態度を参酌して考えると、右移転登記の原因たる両被告間の売買は、被告等が相通じてなした所有権を譲渡し売買代金を支払う真意を伴わない虚偽の意思表示に基くものであることを認めるに十分である。以上の認定に反する被告会社代表者青柳高一及び被告青柳今朝雄各尋問の結果は、たやすく措信し難く、他にまた右認定を覆すに足りる証拠はない。

そうだとすると、本件三七筆につき被告青柳今朝雄のためになされた前記所有権取得の登記は、無効の売買に基く登記であるから、その所有者である原告は、所有権に基いて、同被告に対し、右登記の抹消登記申請手続を求める権利があるこというまでもない。

次に、原告の被告会社に対する所有権移転登記請求の当否について判断する。

原告が昭和二六年三月四日被告会社との間に、本件三七筆を含む被告会社新町工場の敷地及び同敷地内の製材工場を除く建物一切を目的として売買契約を締結し、該売買の結果本件三七筆の所有権をも取得したこと及び本件三七筆について右売買に因る所有権移転登記のなされていないことは、既に認定したところであるから、以下被告会社の抗弁について考えるのに、成立に争のない甲第一号証、証人三木武雄、同茂木伝八、同福田光治、同松浦英の各証言及び被告会社代表者青柳高一尋問の結果を綜合すると、被告会社代表者青柳高一は、前記売買契約の締結に因り新町工場を失うこととなるので、他に新町に足場となるものがほしいとの考えから、当時原告町の元町長笛木玄次郎その他原告側の一部の者達に、被告主張の富士産業株式会社(もと中島飛行機株式会社)新町工場の土地建物及び東鉄工業株式会社の砂利置場の払下、またはその取得の斡せん方を要望し、このことについて多少これらの人達との間に交渉があつたことは認められるが、原告が正式に右の依頼乃至要望をとりあげて、被告会社との間にその主張の如き約定をしたとか、更に進んで被告会社の原告に対する前記売買契約の履行と被告会社主張の事項の履行とを相互に対価として、不可分且つ同時履行の関係に立たしめるような趣旨の契約をしたことは、被告等の全証拠によつても、竟にこれを認めることができない。それ故、被告会社主張の抗弁は、その余の判断をするまでもなく採用し難い。

そうだとすると、原告は、また被告会社に対し、右売買に因る所有権移転登記申請手続を求める権利があること明らかである。

よつて、原告の本訴請求は、全部理由があるから、これを正当として認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項を適用して、主文のとおり、判決する。

(裁判官 川喜多正時 荒木秀一 清水次郎)

第一乃至第七目録<省略>

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